労働者なのか経営者や一人親方であるのか
労災保険は、「労働者災害補償保険法」という法律に定められており、労働者のための保険となります。よって、労働者には該当しない立場の方には、この保険の適用がありません。
建設業の例では、元請会社の代表取締役やそのほかの役員、下請会社の代表取締役やそのほかの役員、一人親方等は、労働者ではないために、原則としては、労災保険の対象にはなりません。
しかし、労働者ではない立場の方には、特別加入という制度があります。別途保険料を納付する必要がありますが、対象とすることは可能です。
特別加入制度とは
本来、労災保険の対象とはならない立場の方でも、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の人については、任意で労災保険に加入することができます。これを労災保険の「特別加入」制度といいます。
特別加入制度には、第1種から第3種までの3種類の制度が存在し、以下のとおりそれぞれ対象となる方が異なります。
[第1種特別加入制度]
中小規模の事業の事業主や、その事業に従事する者のうち労災保険の対象とならない方(家族 従事者、役員等)を対象とした制度です。加入するためには、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託する必要があります。
第1種特別加入に加入できる規模
①金融業、保険業、不動産業、小売業 → 労働者数50人以下の会社
②卸売業、サービス業 → 労働者数100人以下の会社
③上記以外の業種 → 労働者数300人以下の会社
[第2種特別加入制度]
労働者を使用しないで法令で定められた事業を行うことを常態とする一人親方、自営業者並びにそれらの事業に従事する方(家族従事者、役員等)、及び特定作業従事者として法令に定められた作業に従事する方を対象とした制度です。
一人親方その他の自営業者
①個人タクシー業者や、個人貨物運送業者など行う方
②建設の事業を行う方
③漁船による水産動植物の採捕の事業を行う方
④林業の事業を行う方
⑤医薬品の配置販売を行う方
⑥再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業を行う方
⑦船員法第1条に規定する船員
⑧柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師
⑨改正高年齢者雇用安定法に規定する創業支援等措置に基づく高年齢者が新たに開始する事業など
⑩あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゅう師
⑪歯科技工士法第2条に規定する歯科技工士
特定作業従事者
①特定農作業従事者
②指定農業機械作業従事者 ③国又は地方公共団体が実施する訓練従事者 ④家内労働者及びその補助者 ⑤労働組合等の常勤役員 ⑥介護作業従事者及び家事支援事業者 ⑦芸能関係作業従事者 ⑧アニメーション制作作業従事者 ⑨ITフリーランス
一人親方等に該当する方が特別加入するためには、当該事業と同一業種の一人親方の『団体』に加入し、その『団体』を経由して加入手続きを行います。
[第3種特別加入制度]
第3種特別加入とは国内の事業所で勤務していた方が海外へ派遣された場合に日本国内と同様の労災保険の給付が適用されるように設けられた海外派遣者の特別加入制度です。
特別加入の保険料について
中小事業主の方は従業員と違い「給料という概念」がないため「給付基礎日額」によって決まります。
給付算定日額3,500円/日~25,000円/日の中から選択していただくことになります。特別加入者は、自ら申請した給付基礎日額に基づき、都道府県労働局長が承認した額が給付基礎日額となります
この給付基礎日額に365を乗じることで「保険料算定基礎額」を算出します。
【給付基礎日額×365=保険料算定基礎額】この保険料算定基礎額に保険料率を乗じることで「年間保険料」が決まります。
第1種特別加入 35業種(建設業) 給付基礎日額 10,000円の場合
10,000円×365日×9.5/1000=34,675円
労働保険事務組合について
第1種特別加入では、手続きにあたり、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託する必要があります。また、第2種特別加入では、 当該事業と同一業種の一人親方の『団体』に加入し、その『団体』を経由して加入手続きを行います。
例えば、建設会社の社長やその他の役員などが、現場作業はせずに、特別加入の必要性がない場合には、労働保険の手続きは労働基準監督署等と直接行うことができます。しかし、多くの中小の建設事業者は、社長や役員も同じように現場作業を伴い、労働災害に備える必要があります。このような場合には、特別加入の手続きを行いますが、労働基準監督署に対し直接手続きをすることはできずに、労働保険事務組合を通じて、加入することとなります。
労働保険事務組合
事業主の委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて、厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体です。委託できる事業主については下記のとおりです。
常時使用する労働者が
●金融・保険・不動産・小売業にあっては50人以下
●卸売の事業・サービス業にあっては100人以下
●その他の事業にあっては300人以下の事業主
※委託する際には、団体への入会金・委託手数料等が必要になる場合がありますので、必ずご確認ください。
労働保険事務組合が処理できる労働保険事務の範囲
(1) 概算保険料、確定保険料などの申告及び納付に関する事務
(2) 保険関係成立届、任意加入の申請、雇用保険の事業所設置届の提出等に関する事務
(3) 労災保険の特別加入の申請等に関する事務
(4) 雇用保険の被保険者に関する届出等の事務
(5) その他労働保険についての申請、届出、報告に関する事務